会議の質を大きく上げる「スコープの合わせ方」

はじめに

今回は、会議の場で誰もが実践できる「スコープの合わせ方」について書いていきたいと思います。

皆さんも日々多くの会議に参加していると思いますが、特にスピーカーとなった場合、
会議の冒頭でどれだけ聞き手とスコープを合わせられるかが会議の質を大きく左右します。

ちょっとした意識で会議の質を大きく上げられる、スコープの合わせ方について見て行きましょう。

■この記事でわかる事

  • スコープとは何か
  • なぜスコープを合わせる事が重要なのか
  • スコープの具体的な合わせ方

スコープとは何か

スコープとは直訳すると「範囲」という意味ですが、会議やプレゼンの場においては参加者それぞれの焦点・注目領域の事を指します。

様々な話題に対して、人はそれぞれ自分のスコープを持っています。
例えば、「環境問題」と聞いた時に、「地球温暖化」を強くイメージする人もいれば、「大気汚染」をイメージする人、「森林破壊」や「ゴミ問題」など、人によって様々です。自分が会議のスピーカーとなった時は特に、会議の冒頭で、扱う話題についてのスコープを聞き手と合わせる事が非常に重要になってきます。

なぜスコープを合わせる事が重要なのか

なぜスコープを合わせる事が重要なのかというと、「スコープを合わせずに会議を進めると、用意した内容自体がどれだけ良くても、内容が聞き手に伝わらないから」です。最悪の場合、会議はやり直しとなり、実際に会議がやり直しとなっているのもこのケースが多いです。
では、なぜ内容が聞き手に伝わらないかというと、会議中に聞き手の注意がそれぞれ別の方向を向いてしまっており、話の内容を集中して聞けていないからです。そしてこれは聞き手の責任ではなく、スピーカーの責任になります。

会議の冒頭でスコープを合わせなかったために、上手く内容が伝わらない簡単な例を見てみましょう。

スピーカー:「今日は環境問題について取り上げます」
聞き手の頭の中:(環境問題か、色々あるけど地球温暖化の話が出てきそうだな)
スピーカー:「環境問題においては、大気汚染が深刻であり、~~~」
聞き手の頭の中:(大気汚染の話からか、地球温暖化はこの後かな?森林破壊とかゴミ問題にも触れるのかな)
スピーカー:「……大気汚染の話を更に深掘り……」
聞き手の頭の中:(大気汚染の話長いな。そろそろ次のトピックに移るのかな)
スピーカー:「本日の内容は以上です。何か質問等ありますでしょうか?」
聞き手:「あれ、地球温暖化とか他のトピックについては触れないんですか?」
スピーカー:「はい、今日は大気汚染を中心に説明しました」
聞き手の頭の中:(なるほど、大気汚染の話だけだったのか。。えーっと、、話の内容あまり聞けてなかったな。。)

簡単な例でしたが、このような場面は実際によくあります。
「提案の場だから、お金の話が出てくると思ってたんだけど?」
→「今日は実施計画の概要の擦り合わせまでです」
「今日って具体的なアクションまで決めるんじゃないんだっけ?」
→「今日の目的はアイディア出しで、アクション決めは次回です」など。
皆さんも会議で自分が一通り話し終わった後に、上司から「○○については触れないんだっけ?○○の話が最初に出てくると思って聞いてたんだけど」と言われた経験が一度はあるのではないでしょうか?

会議においては、スコープが合っていない状態でどれだけ内容を話しても相手には伝わりません。
会議の質は「内容自体の質」と「スコープの合致度」の掛け算で決まり、用意した内容の質がどれほど良くても、スコープが合っていない状態で進めると、その分、会議としての質が下がってしまいます。

会議の質=「内容自体の質」×「スコープの合致度(0~1)」

用意した内容を最大限伝えるためには、会議の冒頭でいかに聞き手とスコープを合わせられるかが鍵になってきます。
重要な会議の場で緊張している時や、メインとなるトピックの内容をしっかり準備した時などは特に、すぐ内容に入ってしまいそうになりますが、慌てずに、会議の冒頭でスコープを合わせる事を心掛がける事が重要です。

それでは具体的なスコープの合わせ方について見て行きましょう。

スコープの具体的な合わせ方

スコープの具体的な合わせ方は大きく以下の2つのステップからなります。

Step1. 今回取り上げる内容についての認識を合わせる
Step2. 今回取り上げない内容を明示する

Step1. 今回取り上げる内容についての認識を合わせる

まずは、会議で取り上げる内容について認識を合わせましょう。
「今日は会議は○○についてです」と簡単な説明で内容に入ってしまう人が多いですが、これでは不十分です。

取り上げる内容の認識合わせは「1.目的」「2.本日のゴール」「3.アジェンダ」の3つのセットが有効です。

まず、「目的」で今回の会議はなぜ開催されたのかという事を明らかにします。そして「本日のゴール」で、会議が終わった時にどういう状態となっている必要があるかという事を明確にします。会議の冒頭で本日のゴールを明言し、会議が終わった時にどういう状態となっているべきかという事を聞き手に意識してもらう事で、聞き手はポイントを押さえながら内容を聞く事ができます。それから「アジェンダ」を示し、話の大きなブロックと流れを明示します。

重要でありながら多くの人が実践できていないのが、2つ目の「本日のゴール」を明示する所です。
「内容を自分が理解するだけで良いのか」「内容を理解した上で別のメンバーに伝える必要があるのか」「本日の内容を元に何らかの意思決定をする必要があるのか」など、会議が終わった時にどういう状態になっている必要があるかによって、聞き手の姿勢と注目するポイントが大きく変わります。目的を述べるだけでなく、具体的な本日のゴールについても明示する事で、スコープの合致度が一気に高まり、聞き手はより集中して内容を聞く事ができます。

Step2. 今回取り上げない内容を明示する

Step1で概ねスピーカーと聞き手のスコープは合いますが、ここで更に効果的なのが、「今回取り上げない内容を明示する事」です。
つまり、「今日は○○については話しません」と宣言し、聞き手のスコープから今回取り上げない内容をしっかり落とします。

会議が始まる前の状態では、聞き手のスコープは様々な方向を向いています。
そして、Step1によって、スピーカーと聞き手のスコープが概ね合います。しかし、この段階ではまだスコープに漏れの領域があります。
これは聞き手の注目度が大きい領域によっては「今日の目的とゴールはわかったけど、あれについても触れるのかな」といった事がまだ気になっている事があるためです。

わかりやすいケースが、決裁権を持つ上司とプロジェクトの計画などを話す時の「お金」の話でしょう。「今日の目的は今後のプロジェクトの実施計画の作成で、本日のゴールは、主要なタスクの洗い出しと全体のスケジュールの認識合わせです」と言っても、上司としては「お金の話も出てくるのかな?」という事がやはり気になります。ここで「今日はお金の話はしません。お金については本日の内容を踏まえ、次回中心に取り上げます。」と冒頭で宣言してしまう事で、「あ、今日はお金の話はないから、タスクとスケジュールの話に集中すれば良いのね」という事がわかり、上司としても安心して話の内容が聞けるわけです。このように、取り上げない内容を冒頭で明示する事でスコープの合致度を更に高める事ができます。

それではここまでの話を踏まえ、最初の例に当てはめてみましょう。
スコープを合わせる事を意識した場合、以下のような形になります。

「【Step1】本日の目的は、環境問題における大気汚染についての理解を深めて頂く事です(目的)。本日は、大気汚染が深刻化している主要な3つの要因についてそれぞれ説明しますので、その要因と基本的な対策、我々が日常生活で実施できる事について覚えて帰って下さい(本日のゴール)。本日のアジェンダは、5つのパートで構成され、~~です(アジェンダ)。【Step2】なお、環境問題といえば、地球温暖化や森林破壊、ゴミ問題など他にも様々なトピックがありますが、本日は大気汚染を中心に議論するため、その他のトピックについては取り上げません。」

いかがでしょうか。会議の冒頭でスピーカーがこのような導入から入ると、聞き手としても「今日は大気汚染の話に集中して、主要な3つのポイントを押さえれば良いのね」と安心して話を聞けるのではないでしょうか。このようにスコープを合わせた状態で内容に入るのと、最初の例のようにスコープを合わせずに内容に入るのとでは、内容が同じであっても会議の質が大きな違いが出てきます。

また、自分が聞き手の場合も、会議の冒頭でスコープが合っていないなと感じれば、「今日の話は、○○で、●●まで理解すれば良いですか?」や「△△の話は今日出てきますか?」などの質問を入れる事で、会議の質を高める事ができます。これはスピーカーにとっても、他の参加者にとっても大変有難いサポートになるでしょう。

おわりに

いかがでしたでしょうか。
言われてみれば当たり前でありながら、自分が毎回ちゃんとやれていたかというと実はそうでもないかも・・という人も多いのではないでしょうか。

実際、会議での話がわかりやすいと感じる人は、冒頭の入りであるスコープの合わせ方が非常に上手いです。内容が良いという面もありますが、冒頭でスコープをしっかり合わせているため、注目すべき点がわかりやすく、聞き手は余計な事を考えずにポイントを絞って聞けるからです。
この人の会議はいつもわかりやすいなという人がいれば、会議の冒頭を観察してみるのも良いでしょう。

会議の冒頭の少しの意識で、会議の質は大きく変わるため、スコープを合わせる事を常に意識して行きましょう。