アブダクション(仮説推論)
はじめに
今回は、「アブダクション」という推論方法について書いていきたいと思います。
アブダクションは、「演繹」や「帰納」と並ぶ第3の推論方法であり、最も論理の拡張性が高い思考法とされています。アブダクションはまた、発明的・飛躍的思考とも呼ばれ、まだ誰も気付いていない理論やメカニズムに迫る思考としての魅力を持っています。
演繹と帰納についても振り返りながら、アブダクションについて見て行きましょう。
■この記事でわかる事
- アブダクションとは何か
- なぜアブダクションが有用なのか
- アブダクションの実利用
アブダクションとは何か
アブダクションとは、「ある驚くべき事象が起きた理由を説明できる仮説を考える推論法」です。
演繹・帰納との違いは以下です。
演繹 | ある事象について論理的に思考を展開して結論を導き出す推論法 |
帰納 | 観察されるいくつかの事象の共通点に着目し、それを一般的な法則とする推論法 |
アブダクション | ある驚くべき事象が起きた理由を説明できる仮説を考える推論法 |
演繹・帰納が結論や法則を見出す推論法であるのに対し、アブダクションは仮説構築の推論法であると言えます。
また、3つの推論の分類は以下のようになっています。

演繹は分析的推論であり必然的であるのに対して、帰納とアブダクションは拡張的推論であり、帰納は共通事象の一般化の試みなので、必ずしもそうとは言えない蓋然性を持っており、アブダクションは、直接導かれるものではない仮説構築そのものであるので飛躍的推論と言われます。
演繹・帰納・アブダクションの違いを理解するにはガリレオ・ガリレイの「落体の法則」の事例がわかりやすく、ガリレオ・ガリレイは、「物体の落下速度は質量と比例関係にある」といったそれまでの通説に対し、いくつかの実験から「物体の落下速度は必ずしも質量に比例していない」ということを証明しました。これは帰納による証明になります。そしてこの実験結果に対し、「物体の落下速度は質量とは無関係に一定ではないか」という仮説を考えました。これがアブダクションにあたります。その後、万有引力の法則や運動法則でこの仮説が証明・定式化され、これを前提にしてさまざまな推論を試みられた事が演繹になります。
なぜアブダクションが有用なのか
アブダクションと帰納はどちらも拡張的推論に分類されますが、帰納がいくつかの観測事象の汎化であるのに対して、アブダクションは観測事象を元に直接観測することが不可能な原因を推論するという点で異なります。
例えば木からリンゴが落ちるのを見て、その事象自体の一般化により「すべての物体は落下する」と考えるのが帰納で、「物体の間には引力が働いているのではないか」といった因果まで考えようとするのがアブダクションです。
ニュートンの万有引力の法則の発見が象徴的な事例であるように、科学の発展、特に目に見えない対象を扱うことの多い物理学の発展において、アブダクションは重要な役割を果たしてきました。
要するに、驚くべき事象を発見して「不思議だ、すごい」「そういうものだ」で終わる事なく、「なぜ」を徹底的に考え、原理原則を見つけ出す事がアブダクションであり、ビジネスにおいても有用な考え方と言えます。
アブダクションの実利用
アブダクション自体はあくまで仮説形成であるため、
実際の利用においては、アブダクションで立てた仮説を演繹と帰納で具体化・検証し、仮説を強化・立証して行く事が必要になります。
■アブダクションの実利用の流れ
- 驚くべき事象に出会う
- その事象が起きている事を説明できる仮説(説明仮説)を立てる
- 立てた仮説を演繹で具体化する
- 演繹で具体化した事象を帰納で検証する
→ 新たに立てた仮説が強化・立証される
■具体例 (思考法図鑑 翔泳社からの引用)
- 驚くべき事象:駅前に出店した店舗の商品が沢山売れた
- 仮説構築:人通りの多い立地ほど商品が売れるのではないか?
- 演繹で具体化:
・大通りに店舗を出店すると、そこでもよく売れる
・ほかの駅前に出店すると、そこでもよく売れる
・大学の前に出店すると、そこでもよく売れる - 帰納で検証:
・大通りに出店した店舗でもよく売れた
・ほかの駅前に出店した店舗でもよく売れた
・大学の前に出店した店舗でもよく売れた
→ 人通りの多い立地ほど商品が売れる
アブダクション自体は、「ほんと?」と言われる仮説構築の段階であるので、演繹と帰納によって、その仮説を強化・立証して行く事が重要になります。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
演繹や帰納は知っているが、アブダクションは知らなった。聞いた事はあるけど、ちゃんと理解していなかったという人も多いのではないでしょうか。知らなかったけどなんとなくやれていたという事もあるとは思いますが、なんとなくやれている事と、明示的に理解・言語化できている事は再現性の観点で大きく異なります。
演繹と帰納からもう一歩外に出て、新しい事実・結論を発見するためのアブダクションを理解し、日々の問題解決の場面で活用して行きましょう。