経験学習
はじめに
今回は「経験学習」という、学習モデルについて書いて行きたいと思います。
経験学習は非常に有名な「人間の学習」に関するモデルであり、企業研修など人材育成の領域では頻繁に登場する概念です。
ビジネスパーソンは日々の仕事の実践によって自身を成長させて行きますが、漠然と仕事にあたっていたり、とにかく目の前の仕事を一生懸命やるというだけでは、なかなか効率的に成長する事は出来ません。一方、経験学習を意識する事で、1つ1つの経験を単なる経験で終わらせる事なく、確かな学びに変えて行く事が出来ます。
「行動力」は非常に重要である一方、1つの行動から1しか学ばない人と、1つの行動から3,4と学ぶ人では、その成長速度に圧倒的な差が出てきます。時間が限られている中では、経験出来る数というのも当然限られるため、1つ1つの経験からの学びを最大化する、経験学習について見て行きましょう。
経験学習とは
経験学習は、アメリカの組織行動学者デービッド・コルブが提唱した学習モデルで、4つの学習プロセス「経験→内省→概念化→試行」からなります。
まず「経験学習」という名前の通り、実際に「経験」する事が大前提となります。実際の経験から得られる情報量は、経験せずに机上の空論を展開してわかったつもりになる場合の比ではありません。具体的に行動し、経験する事が最も重要な最初のプロセスになります。そして、経験の結果を「内省」によって振り返ります。今回の経験において、自分にとって良かった点・ダメだった点、周囲の人達から見てどうだったかなど、様々な観点から振り返ります。そして次に、この振り返りの内容を1段抽象化して「概念化」を行います。
振り返りの時点では内容の具体性が強く、そのままでは他のケースに応用できる範囲が限られてしまいます。そのため、この概念化によって、他のケースにも応用できる学びへの昇華させます。そして、この概念化した内容を新しい場面で実際に試す「試行」のプロセスに繋げます。受動的な経験をただ繰り返すのではなく、経験から得た学びを振り返り、概念化し、次の試行に繋げて行く事で、新たな質の高い経験を得る。この能動的な学習のプロセスが経験学習になります。
成長の早さに最も差が出るのは「概念化」の上手さ
経験学習のプロセスはもちろん全て重要ですが、同じ仕事や経験をしているはずなのに、人によって成長に大きな差が出るのはなぜでしょうか。その差を決定付けているのが、この「概念化」の上手さです。
成長の遅い人は、経験を通して得た学びの概念化が出来ておらず、1つの場面での経験を別の場面で活かせず、次の場面でも同じような失敗を繰り返してしまいます。一見同じような場面にも関わらず、概念化が出来ていないため、その人にとっては全く新しい場面だと感じてしまい、前回の学びが活かせないからです。
一方、成長の早い人は概念化が上手く、1つの経験から得た学びを1段上のレイヤーで概念化出来ているので、概念化した内容を様々な場面で活かして行く事が出来ます。成長が早い人はこの「概念化」によって、1つの経験の学びを3にも4にもする事ができるため、単純に経験だけをした人、具体的な内容の振り返りだけで終わっている人と大きな差がついて行きます。
我々は「振り返り」自体には馴染みがあります。経験した事を振り返り、「次からは○○に気をつける」といった事を考えるプロセスは教育課程においても繰り返し実践してきたためです。しかしこれは、経験学習のプロセスに当てはめると「経験→内省」だけで終わってしまっている状態になります。
概念化に繋げるためには、振り返りにおいて「何が良かったのか」「何がダメだったのか」というWhatを出した上で、一段上の因果を辿るために「なぜ良かったのか」「なぜダメだったのか」というWhyを考える事が重要になります。このWhyによって振り返りの内容を一段抽象化して概念化する事で、他の場面での応用が利くようになります。
経験学習においても、ロジカルシンキングと同様に、なぜ(Why)を考える事がやはり重要になってきます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
言われてみれば当たり前だと思うものの、実際に実践出来ているという人はなかなか少ないのではないでしょうか。
「日々色々な事を経験しているので、自分は成長しているはず」と思っていても、漫然と経験しているだけでは残念ながら実のある成長には繋がって行きません。単純な経験年数の長さだけで、その人の優秀さが計れない要因の一つもこの違いにあるでしょう。
経験学習のプロセスを意識し、経験から得られる学びを最大化して行きましょう。